二月十六日、藤崎町藤城館の政見発表演説会における弁士と演題は左のとおりで、聴衆は八〇〇人を数えた。
△総ての人民に自由を与えよ 石渡春雄
△地主政党を征伐せよ 武内完治(日労)
△労働農民党の使命 大沢久明(労農)
△民衆よ起て 相馬慶作(労農)
△我等勝利しつつあり 松岡辰雄(労農)
△民衆の敵を倒せ 石井東一(日労)
一週間の集中的選挙運動はどこにおいても盛り上がりをみせ、石渡の得票二六八五票は、次点の前代議士たった菊池良一、兼田秀雄に次ぐ最下位だが、南郡においては前年の県議選で泉武夫が得た四一三票を大きく上回る七八三票で、弘前市内から三〇四票、ほか津軽一円からまんべんなく票を得た。
三・一五事件直後の四月十日労農党は解散を命ぜられた。しかし、早速に解散反対同盟が結成され、黒石・弘前・五所川原・青森・八戸で反対演説会が開かれた。そして新党結成の準備会が結成された。中央からは大山郁夫、細迫兼光らがやってきた。これに対して弘前警察署などは徹底的に弾圧し、大山をして弘前警察署は全国で最悪と言わしめた。
新党準備会は、十月二十四、二十五日、東京に全国代表者会議を開いて各地の情勢報告、綱領や規約の審議を行い、結党大会の時期も論ぜられた。組織に自信のある本県代表大沢久明は、この代表者会議をそのまま結党式に移行せよと主張したが、同年十二月二十二日から三日間にわたって東京本所公会堂で開かれることになった。本県からは堀江彦蔵、柴田久次郎ら六人が出席した。しかし、この全国大会も三日目に解散させられ、流れは合法的無産政党の結成をあきらめ、地下組織である共産党に接近する方向に向かった。
写真88 昭和3年12月の新労働農民党結成大会(矢印が堀江彦蔵)
翌四年三月四日、大阪で開かれた全国農民組合大会において、無産党代議士の山本宣治は「山宣ひとり孤塁を守る」の有名な演説を行い、翌日はすでに緊急勅令で成立していた治安維持法の強化(国体変革を企てる者に死刑)に衆議院で反対演説するのを封ぜられ、その夜、警察と組んだ右翼に襲われ、壮絶な最期を遂げた。一ヵ月後の四月六日、いわゆる四・一六事件が起き、大沢・堀江ら先鋭な闘士は根こそぎ検挙され、指導者を失った無産政党は分裂・対立し、既成政党に対抗する勢力に成長し得なかった。
したがって、昭和五年一月、浜口内閣によって行われた第二回普選では、第一区は日本大衆党公認小島利雄、第二区は前回同様石渡春雄という弁護士の輸入候補を立てて戦ったが、小島候補一四一一票、石渡候補二九四七票で、石渡は前回を上回ること三〇〇票弱でしかなかった。
第一回普通衆議院選挙結果(第二区)昭三・二・二〇
◇中津軽郡町村別得票 | |||||||||||||||||
町村名 | 清水 | 和徳 | 豊田 | 堀越 | 千年 | 駒越 | 岩木 | 相馬 | 東目 屋 | 西目屋 | 藤代 | 新和 | 大浦 | 船沢 | 高杉 | 裾野 | 計 |
候補者(政党) | |||||||||||||||||
兼田秀雄(民政) | 92 | 65 | 46 | 28 | 48 | 38 | 40 | 10 | 49 | 80 | 33 | 33 | 87 | 66 | 1 | 2 | 718 |
工藤十三雄(政友) | 278 | 302 | 126 | 142 | 54 | 47 | 183 | 77 | 171 | 110 | 142 | 225 | 98 | 42 | 204 | 174 | 2375 |
鳴海文四郎(政友) | 222 | 319 | 424 | 69 | 86 | 452 | 111 | 76 | 46 | 126 | 256 | 274 | 105 | 92 | 72 | 143 | 2873 |
菊池良一(民政) | 345 | 289 | 112 | 181 | 481 | 78 | 282 | 184 | 168 | 117 | 259 | 57 | 109 | 246 | 12 | 58 | 2979 |
長内則昭(民政) | 23 | 68 | 17 | 158 | 56 | 35 | 19 | 26 | 2 | 3 | 154 | 65 | 82 | 87 | 206 | 212 | 1215 |
石渡春雄(労農) | 71 | 78 | 27 | 28 | 7 | 19 | 13 | 29 | 12 | 11 | 30 | 66 | 34 | 30 | 17 | 37 | 509 |
◇弘前市得票数 | ◇各立候補者総得票数 | ||||
兼田秀雄(民政) | 三九〇票 | 当選 | 鳴海文四郎(政元) | 一九九五〇票 | |
工藤十三雄(政友) | 一四七〇〃 | 〃 | 工藤十三雄(政前) | 一四五八二〃 | |
鳴海文四郎(政友) | 七一八〃 | 〃 | 長内則昭(民新) | 一〇二〇〇〃 | |
菊池良一(民政) | 二〇二八〃 | 次点 | 菊池良一(民元) | 七七六八〃 | |
長内則昭(民政) | 二五三〃 | 兼田秀雄(民前) | 六二八八〃 | ||
石渡春雄(労農) | 三〇四〃 | 石渡春雄(労農新) | 二六八五〃 |
昭和三年(中弘地方)政党役員
立憲政友会青森県支部の中弘関係者
△支部長 黒石町 鳴海文四郎
△幹事長 青森市 梅村大
立憲政友会青森県政友倶楽部(昭二、十二、十二 県政友会より脱退した旧政友本党系)
△会長 南郡六郷村 宇野勇作
△評議員 清水村 成田勇作 大浦村 齋藤晋作 東目屋村 長谷川毅 清水村 成田清太郎 和徳村 佐藤多作 弘前市 佐藤昇一 同 近藤東助 同 鳴海定五郎 同 工藤福弥 同 桜田清芽 同 桜庭源三郎 同 伊藤孝太郎 同 今谷喜兵衛 同 三上新太郎 同 浅利武三郎
△幹事 高杉村 高杉平治
立憲民政党青森県支部の中弘関係者
△支部長 野辺地町 野村治三郎
△常任幹事 千年村 松木純一郎
△政務調査会副会長 弘前市 福山真兆
△常務委員 弘前市 伊藤柾吉
△遊説副部長 千年村 松木純一郎
△分所長 中弘分所 弘前市 佐藤要一
昭和五年一月第二回普選総選挙の無産政党執行部
労農党県連合会
執行委員長 岩淵謙二郎(党中央本部執行委員を兼任)
書記長 中浦秀蔵
執行委員長 小島利雄
書記長 西村菊次郎(党本部中央執行委員を兼任)
社会民衆党県支部連合会(会長欠く)
書記長 阿保与一