第一期

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十腰内および十面沢付近に分布する十面沢小丘群や、岩木火山南東方の兼平石を形成するような、いわゆる先岩木火山噴火活動が発生した。溶岩円頂丘(10)である兼平石十腰内石(十面沢小丘群からの採石をいう)、また北麓の白草山と北側の小丘などに共通していることは、板状節理(11)の発達した安山岩質溶岩からなっていることである(写真17)。ちなみに、十腰内の貴船神社の御神体も板状の安山岩であり、南麓にある森山の斜面にみられる崖錐物(がいすいぶつ)も板状の安山岩が圧倒的に多い。岩見(一九六一)は十面沢小丘群の岩石学的な研究から、現岩木火山の活動以前の「古岩木火山」の活動によるものであると指摘している。K-Ar法による年代測定では、兼平石が〇・三四±〇・〇三百万年前であり、十面沢小丘群の一つである巌鬼山神社近くの小丘(写真18)では〇・二六±〇・〇三百万年前の数値が得られている(表2)。なお、佐々木ほか(一九九六)は十面沢小丘群を「十腰内岩屑なだれ」として考え、〇・二四±〇・〇五百万年前の年代値を報告している。また、従来寄生火山として取り扱ってきた西麓の黒森が古岩木火山噴出物および岩屑なだれ堆積物で覆われることから(塩原・岩木山団研、一九八〇)、北麓の鍋森山笹森山、南麓の森山も同様に先岩木火山噴火活動で形成されたのではないかと考えられる。

写真17 板状の安山岩質溶岩からなる白草山北方の小丘。


写真18 巌鬼山神社近くの砕石場。板状節理の発達した安山岩溶岩。

 このように、約三五~二五万年前に、岩木火山周辺において板状節理の発達した輝石安山岩質溶岩を放出する、先岩木火山噴火活動が発生して、溶岩円頂丘群が形成されたものと考える。
 ところで、酒井(一九六〇)は、東側の黄金山を中心とした丘陵を構成する第四系の黄金山層について報告している。黄金山層の下部は塊状の安山岩質角凝灰岩であるのに対して、上部はラミナ(葉理)の発達が顕著であって、下位から泥炭を挟むシルト層ないし凝灰質粘土層、砂層、粘土層を挟む砂礫層砂質粘土層、そして最上部の軽石層を挟む砂質凝灰岩層の順に堆積している。下部は基盤地形の影響を受けてしばしばドーム状に湾曲するが、上部はほぼ水平に堆積している。その基盤をなす堆積物は、古い岩木火山から放出された火山砕屑物であろうと指摘している(写真19)。

写真19 黄金山付近の露頭。傾斜する黄金山層と下部の角凝灰岩(右側)

 松山・岩木山団研(一九八〇)および塩原・岩木山団研(一九八〇)は、新法師付近から黄金山にかけての丘陵において、酒井(一九六〇)の指摘した先岩木火山起源の噴出物を確認している。松山・岩木山団研(一九八〇)はこれを新法師(しんぼし)層と命名し、「ゲロパーミス(12)」と呼称している。由来は、風化したカラフルな安山岩(嘔吐(おうと)物に見立てる)が多量に含まれることによる。ゲロパーミスは暗褐色を呈する角凝灰岩で、酸化鉄およびマンガン粒の混入が目立つ。安山岩質の角は風化が著しく、表面に酸化皮膜をもったり全体が粘土化したりしている。岩木町羽黒神社付近では、径が一〇〇センチメートル以上の風化も包含されている。なお、羽黒神社南方の高館山では、ゲロパーミスの下位に暗灰色の新鮮な凝灰角岩が堆積している。この暗灰色の凝灰角岩とゲロパーミスは、高館山を含めて兼平石の産出地周辺のみに分布することから、ゲロパーミスは下位の凝灰角岩の浸食による再堆積物の可能性がある。湯段西方の黒瀧神社近くでは、ゲロパーミス下の暗灰色凝灰角岩に対比される堆積物が一〇メートル以上と厚く、下位には泥炭層を含む凝灰質の砂質粘土層堆積している(写真20)。おそらく、先岩木火山起源の新法師層、呼称「ゲロパーミス」は、浅い湖底堆積物と考えられる黄金山層の堆積以前の噴火活動によってもたらされたものと考えられる。

写真20 黒瀧神社近くにみられる凝灰角岩。下位に泥炭層をはさむ凝灰質粘土層堆積する。