写真17 板状の安山岩質溶岩からなる白草山北方の小丘。
写真18 巌鬼山神社近くの砕石場。板状節理の発達した安山岩溶岩。
このように、約三五~二五万年前に、岩木火山周辺において板状節理の発達した輝石安山岩質溶岩を放出する、先岩木火山の噴火活動が発生して、溶岩円頂丘群が形成されたものと考える。
ところで、酒井(一九六〇)は、東側の黄金山を中心とした丘陵を構成する第四系の黄金山層について報告している。黄金山層の下部は塊状の安山岩質角礫凝灰岩であるのに対して、上部はラミナ(葉理)の発達が顕著であって、下位から泥炭を挟むシルト層ないし凝灰質粘土層、砂層、粘土層を挟む砂礫層、砂質粘土層、そして最上部の軽石層を挟む砂質凝灰岩層の順に堆積している。下部は基盤地形の影響を受けてしばしばドーム状に湾曲するが、上部はほぼ水平に堆積している。その基盤をなす堆積物は、古い岩木火山から放出された火山砕屑物であろうと指摘している(写真19)。
写真19 黄金山付近の露頭。傾斜する黄金山層と下部の角礫凝灰岩(右側)
松山・岩木山団研(一九八〇)および塩原・岩木山団研(一九八〇)は、新法師付近から黄金山にかけての丘陵において、酒井(一九六〇)の指摘した先岩木火山起源の噴出物を確認している。松山・岩木山団研(一九八〇)はこれを新法師(しんぼし)層と命名し、「ゲロパーミス(12)」と呼称している。由来は、風化したカラフルな安山岩礫(嘔吐(おうと)物に見立てる)が多量に含まれることによる。ゲロパーミスは暗褐色を呈する角礫凝灰岩で、酸化鉄およびマンガン粒の混入が目立つ。安山岩質の角礫は風化が著しく、礫表面に酸化皮膜をもったり礫全体が粘土化したりしている。岩木町羽黒神社付近では、礫径が一〇〇センチメートル以上の風化礫も包含されている。なお、羽黒神社南方の高館山では、ゲロパーミスの下位に暗灰色の新鮮な凝灰角礫岩が堆積している。この暗灰色の凝灰角礫岩とゲロパーミスは、高館山を含めて兼平石の産出地周辺のみに分布することから、ゲロパーミスは下位の凝灰角礫岩の浸食による再堆積物の可能性がある。湯段西方の黒瀧神社近くでは、ゲロパーミス下の暗灰色凝灰角礫岩に対比される堆積物が一〇メートル以上と厚く、下位には泥炭層を含む凝灰質の砂質粘土層が堆積している(写真20)。おそらく、先岩木火山起源の新法師層、呼称「ゲロパーミス」は、浅い湖底堆積物と考えられる黄金山層の堆積以前の噴火活動によってもたらされたものと考えられる。
写真20 黒瀧神社近くにみられる凝灰角礫岩。下位に泥炭層をはさむ凝灰質粘土層が堆積する。