教育・学習活動を、当時の『北海新聞』やその後身の『北海道毎日新聞』、『函館新聞』等から目についた範囲を拾いあげると次のような表となる。当時の札幌の教育・学習活動のおおよそが知られるであろう(表9)。
表-9 教育・学習活動団体 |
団体名 | 年月日(明治) | 活動状況 |
札幌博物学会 (札幌農学校内) | 14・1創立 | 会長宮部金吾。動植物・地質・人類学等自然科学を対象とする学術会。月次会を行う。 |
北海講学会 | 15・1・30 開会式 | 趣旨は、専ら学術上の演説を行い、知識を開発し、真理を考究す。二十年当時会長山崎清躬、会員三百余人。 |
北海道教育会 | 15・3創立 | はじめ札幌教育会。教育の進路を改良進歩するを目的とす。夏期講習会などを開催。三十年札幌支会設立。機関誌『北海道教育雑誌』刊行。 |
札幌読書会 | 16・3創立 | はじめ札幌司典社で創立。書籍を購入し、公衆の便覧に供すを目的とす。水谷直孝、前野長発斡旋。二十年五月役員村尾元長、井川冽、前野長発。維持会員の寄付により図書購入を図る。 |
北海道学友会 | 20・11・23創立 | はじめ札幌雄弁会。二十一年十二月改称。学術を研究し実力を養成し国家の富強をはかるを目的。毎月二回通常集会。二十二年三月八日機関誌『北海道』創刊号発刊。二十四年一五号まで発行。以後休会したが三十二年八月再興。当時会長佐藤昌介。 |
札幌法学協会 | 21・11・4 | 講義・討論・擬律・擬判の方法により法律講究の目的。会員十余人。二十二年三月二十三日例会で日本帝国憲法講義。 |
敬業塾(館) 学術研究会 | 14設立 | 大谷発設立の私塾。十七年廃校になったが二十一年再建。補習教育を行っていたが、塾生が中心となって学術研究会を開催し、演説、談話を行う。二十四年敬業館より農学校へ入学した生徒により、知識交換学芸伸暢のため尚志会設立。 |
札幌婦人研究会 | 22・4・30付 | (存在確認できず) |
北海道大和会 (大通西九丁目) | 22・10・6付 | 皇漢洋古今の書籍、各種の新聞雑誌、撃剣、柔術・囲碁の器貝等を備え、会員の閲覧使用を目的。会員数約八〇〇人。機関誌発行予定。 |
白石青年会 | 22設立 | 徳義を重んじ知識の交換をはかるを目的。毎月一、二回の例会。二十九年一月の新年祝賀会に百有余人出席。 |
「あいぬ」会 | 23・2・26付 | 村尾元長、永田方正が中心となり、アイヌ民族に関する諸般の事項を調査し、「アイヌ」以前の時代の事を討究する。 |
時習館学術演説会 | 24・3・15開催 | 二十三年十二月富所広吉設立の私塾。演説会や雑誌無料縦覧を行う。 |
愛国同志会 (南一条西七丁目) | 24・4・3発会式 | はじめ愛国青年会。演説、討論、有用な書籍新聞雑誌等を購入し、会員の縦覧に供す。のち義勇民兵隊を設立し、屯田兵司令部の監督下に置く。 |
露語研究会 | 24・11・26付 | 露西亜語の研究会。日曜祭日を除く毎日開催。通常会員金二〇銭。二十六年会頭二木彦七、教員鮫島氏。 |
学芸会(農学校内) | 24設立 | 知識学芸を暢発し、文章弁舌を錬磨し一致結合、矯風志気の鼓舞。機関誌『蕙林』。 |
北鳴文学会 | 24設立 | 演説会、学術などの研究。 |
英学会(大通西七) | 24・11・28開催 | 英語研究会。会主桜井清矣。 |
札幌史学会 (北海禁酒倶楽部内) | 25・4・3 第一回会合 | 5・3発会式。発起人新渡戸稲造、久松義典、永田方正、高畑宜一。北海道の歴史・地理の研究を目的。年一~五回の講演会。歴史資料の編纂・刊行。三十年『札幌沿革史』刊行。 |
三学会 | 26・3・8付 | 和仏法律学校卒業生大野昌太郎設立。法律、政治、経済三学科を研究。毎日講述。一カ月八〇銭。 |
平和同盟会 | 26・3・24付 | 当区の有志数名、列国の時事を憤慨し、万国に平和を勧告するため。 |
札幌人類学会 (北辰病院内) | 28創立 | 会長関場不二彦、会員河野常吉、高畑宜一、菅菊太郎、大野氏。定例の学術研究会。機関誌『札幌人類学会誌』刊行。 |
かめら会(農学校内) | 29創立 | 札幌農学校経済専攻生の研究発表及び農政・農業経済学の知識を交換す。 |
実業青年鍛練会 | 30創立 | 区内青年有志数十人で設立。 |
豊平村青年者同窓会 | 30・2・14開催 | 歴史教育幻灯会を兼ね開会。 |
札幌法学会 (北海禁酒倶楽部内) | 31・2・4付 | 法律研究。毎週土曜日開催。束脩金五〇銭。月謝三〇銭。 |
苗穂村青年講談会 | 31・6・19付 | 知識研磨、『帝国文学』、『太陽』その他十余種の雑誌、新聞購入し随意縦覧。 |
桜洲青年同志会 | 32・8・19創立 | 漣山人の首唱。苗穂村に支部創立。茶話会。 |
暇修会 | 32・2・17付 | 真明塾にて無料で大槻清崇著『近世史談』を講和。 |
このように一覧した限りでも、その活動内容は実に多岐にわたっている。北海道学友会、札幌博物学会、札幌史学会、札幌人類学会等に代表されるいわゆる学術研究・交流に目的があるものから、札幌読書会、北海道大和会に代表される知識を広く高めるために新聞・雑誌を購入し、一般の縦覧に供するものまである。これらの多くは定例会を開き、そこで演説会や討論会あるいは講話や親睦交流会などを重ねている。なかには短期間で活動を中止したらしい団体もあるが、長期にわたって継続した団体もある。さらには北海道学友会や北海道教育会のように機関誌を発行して広く普及活動を行ったり、札幌史学会のように『札幌沿革史』を刊行するなど蓄積を残した団体もあった。
一方、宗教活動は、神道、仏教、キリスト教と大きく三つがあげられよう。そのうち、神道演説会や仏教演説会のような単発の会ではなしに結社団体としての活動が明確なものを当時の新聞等から拾うと表10のようになる。
表-10 宗教活動団体 |
団体名 | 年月日 | 活動内容 |
札幌仏教青年会 | 22・7・23付 | 南二西四。真正の文明を挽回するために仏教を研究し、禁酒を守り、仏教徒諸般の悪風を匡正し、国を護り、人を利し、真仏教の本分を尽すを目的。演説会の演題に「禁酒」、「廃娼」、「矯風」をかかげる。 |
札幌婦人教会 | 31・9・3 発会式 | 蓮本蓮城外一人発起の仏教婦人会。婦人の徳性を涵養し、女子に必要な文芸を授けるを目的。満一〇歳以上毎月一回講談説話。三十二年書画、活花、裁縫、押絵、切附、編物等を一般に縦覧。 |
北海道仏教会 | 27・12・25付 | 男女会員二〇〇人に達す。女子部に女礼式を教える。二十八年北海禁酒倶楽部にて大会兼懇親会を開催。 |
札幌少年教会 | 21・4開会 | 札幌仏教青年会附属、一〇歳以上一五歳以下の者を対象。本願寺別院にて談話、遊戯。生徒の復読。 |
仏教少年会 | 26・3創立 | 中央寺随徒諸氏の発起。男子部、女子部合わせて四〇〇余人。青年部を設け、国家的思想を養成。『北海之灯』発刊。 |
仏教各宗聯合会 | 32・5・20 発会式 | 大谷派説教所にて。一四〇〇人集会。聯合会規程。 |
顕正護国会 | 27・6・2開催 | 仏教演説会を北海禁酒倶楽部にて開催。演題「仏教禁酒論」。二十九年創立三周年記念演説会。「戦争後の仏教」、「殖民的仏教」ほか。 |
札幌基督教会 | 14・10創立 | 独立教会派。札幌基督教会(南三西六)所属の会員を中心に基督教演説会、親睦会を行う。講演者に新渡戸稲造、大島正健、竹内種太郎等々。時には宗派を超えた大演説会、大懇親会を開催。 |
札幌基督教徒婦人会 | 20・8開催 | 札幌基督教会の婦人部会。二十一年八月、偕楽園清華亭にて親睦会開催。スミス教師等六〇余人。大島千代子司会。生徒唱歌、風琴、茶菓、絵画の展覧、婦人親睦会の嚆矢。二十六年東京婦人矯風会会頭矢嶋楫子出席。婦人会を各家庭回り持ちで開催。二十七年老婦人会。二十八年会員数一二五人。三十年キリスト教五派の聯合婦人会開催。九〇人参加。 |
札幌基督教徒青年会 | 14・10組織 | 札幌基督教会の青年部会。月次会、演説会を行う。講演者馬場種太郎、伊藤一隆、大島正健、佐藤昌介等々。日清戦争下では報国恤兵大幻灯会を開き、その収益金を軍人遺族救恤費にあてる。三十二年学生のための寄宿舎建設計画を起こす。 |
以上は仏教、キリスト教系の活動がおもであるが、このような活動を行っている。ともに青年会、婦人会といった部会を設けているのが特色である。また札幌仏教青年会のごとく、目的に「禁酒」を掲げ、社会改良的運動も合わせ行っているのも特色であろう。
一方、神道においても演説会を開催し、二十二年の本州の水害に際しては、札幌神社宮司阿由葉宗三郎が義捐を望む旨の演説を行った。