札幌区の人口は明治三十二年で約四万人であった。それ以降は三年間で一万人ずつ増加するという急激ぶりであり、四十一年には七万人を突破し、四十四年以降は九万人台となっていた。このような人口増加は新寺の創立を導くようになった。この時期は先の専修寺別院、興正寺別院の他にも、三十三年に
曹洞宗の
龍松寺、三十五年に
真言宗高野派の
隆光寺、四十年に
曹洞宗の
大覚寺などが創立されている。ただし当時、寺号公称を得ての寺院創立は、檀家戸数、境内地、基本財産などにより制限されており、それを得ることはなかなか難しかった。その代わりに簡易な聞法の場となる
説教所がつくられている。区内には特に日露戦争後に多くの
説教所が創設されていた。
表3(abc)は、大正十年現在の札幌区内の寺院及び
説教所、諸町村の寺院を一覧したものであるが、宗派別にみると区内の寺院は一八カ寺のうち
浄土真宗が六カ寺、
曹洞宗が四カ寺となっている。
説教所の方では一七所のうち
浄土真宗が六所、日蓮宗が五所であった。
寺名 | 宗派 | 創立 | 所在地 | 檀家数 | 檀徒数 |
大谷派本願寺別院 | 大谷派 | 明 3年7月 | 山鼻町 | 1,700戸 | 7,443人 |
中央寺 | 曹洞宗 | 7.9 | 南6西3 | 850 | 5,950 |
本願寺札幌別院 | 本願寺派 | 8. | 南4西5 | 1,103 | 5,515 |
経王寺 | 日蓮宗 | 13.4.1 | 豊平町 | 550 | 3,300 |
新善光寺 | 浄土宗 | 17.4. 25 | 南6西1 | 605 | 3,050 |
新栄寺 | 新義真言宗智山派 | 22. 12.17 | 南7西3 | 235 | 1,175 |
北海寺 | 法華宗 | 23.6.6 | 南2東4 | 279 | 2,198 |
慧林寺 | 大谷派 | 24. 12.11 | 豊平町 | 263 | 1,623 |
順正寺 | 浄土宗西山派 | 27.9 | 豊平町 | 173 | 942 |
玉宝寺 | 曹洞宗 | 31.4. 11 | 南7西7 | 120 | 525 |
龍松寺 | 曹洞宗 | 33. 12.7 | 豊平町 | 164 | 1,044 |
興正寺別院 | 興正派 | 34.9. 23 | 南2西5 | 240 | 640 |
専修寺別院 | 高田派 | 35.2. 20 | 南4東4 | 298 | 1,907 |
隆光寺 | 真言宗高野派 | 35.5. 31 | 北5西20 | 76 | 294 |
大覚寺 | 曹洞宗 | 40.3. 12 | 元村町8 | 287 | 1,578 |
堯祐寺 | 本願寺派 | 大 2.5. 30 | 大通西16 | 150 | 150 |
日泰寺 | 本妙法華宗 | 5.4. 18 | 山鼻町 | 236 | 944 |
顕本寺 | 顕本法華宗 | 10.6. 11 | 白石町 | 106 | 110 |
1.一部数値を大正10年より補訂。 2.創立は経王寺より寺号公称の年時を採用。 3.本願寺派は浄土真宗,大谷・興正・高田派は真宗の冠称を省略。 4.『大正11年札幌区統計一班』より作成。 |
説教所名 | 宗派 | 創立 | 所在地 | 檀家数 | 檀徒数 |
湯殿山 | 真言宗智山派 | 明21年10月 | 豊平町 | 360戸 | 360人 |
三条説教所 | 大谷派 | 25.3 | 南3西1 | 262 | 1,278 |
叡山教会三十号分社太子講本部 | 天台宗 | 27.3 | 南6西2 | 344 | 475 |
本願寺北八条説教所 | 本願寺派 | 29.3 | 北8東2 | 320 | 640 |
札幌別院所属北九条説教所 | 大谷派 | 31.12 | 北9西2 | 540 | - |
経王寺説教所 | 日蓮宗 | 37.3 | 南6西7 | 85 | 305 |
説教所 | 浄土宗西山派 | 40.12 | 南7西2 | 165 | 575 |
説教所 | 浄土宗西山禅林寺派 | 41.3 | 南7西2 | 140 | 427 |
東説教所 | 日蓮宗 | 41.5 | 北1東7 | 103 | 556 |
東説教所 | 大谷派 | 41.9 | 北3東3 | - | - |
苗穂説教所 | 本願寺派 | 42.12 | 苗穂町 | 180 | - |
上宮教会 | 真言宗 | 43.1 | 北8東2 | 100 | 290 |
喜徳教会所 | 日蓮宗 | 44.11 | 南5西2 | 130 | 216 |
恵照寺三門徒派説教所 | 真宗三門徒派 | 45.3 | 南2東4 | 94 | 94 |
錦織寺札幌説教所 | 真言木辺派 | 大 4.1 | 南2西9 | 200 | 280 |
妙法喜徳説教所 | 日蓮宗 | 5 | 北7西2 | 100 | 413 |
正中教会所 | 日蓮宗 | 6.9 | 南1西8 | 125 | 578 |
寺名 | 宗派 | 寺号公称 | 所在地 | 檀徒数 |
法国寺 | 大谷派 | 明20年3月8日 | 札幌村苗穂 | 421人 |
本龍寺 | 日蓮宗 | 明14.7. 25 | 同 | 150 |
高恩寺 | 本願寺派 | 明32.7. 18 | 同 | 121 |
龍雲寺 | 浄土宗 | 明19.9.6 | 篠路村元村 | 150 |
教願寺 | 大谷派 | 明28.9. 18 | 同 十軒 | 200 |
日登寺 | 日蓮宗 | 明15.3. 13 | 琴似村山手 | 134 |
浄恩寺 | 大谷派 | 明19. 10.4 | 同 川添 | 106 |
覚王寺 | 本願寺派 | 明37. 10. 14 | 同 新琴似 | 150 |
観音寺 | 曹洞宗 | 明37. 11. 16 | 同 同 | 110 |
光明寺 | 日蓮宗 | 明40.7. 30 | 同 同 | 175 |
兼正寺 | 大谷派 | 明37.8.5 | 手稲村下手稲 | |
祥龍寺 | 曹洞宗 | 明30.4. 30 | 同 同 | |
瑞龍寺 | 曹洞宗 | 大 9.3.9 | 藻岩村円山 | 134 |
宝流寺 | 本願寺派 | 大 9.1.7 | 同 八垂別 | 130 |
長専寺 | 浄土宗 | 明30.9. 18 | 豊平町平岸村本村 | |
光円寺 | 本願寺派 | 明34. 11. 18 | 同 月寒村厚別北通 | |
福住寺 | 本願寺派 | 明35. 10. 23 | 同 同 西通 | |
新三井寺 | 天台宗 | 明44.6. 28 | 同 豊平村 | |
妙現寺 | 大谷派 | 大 6.3 | 同 平岸村石山 | |
含笑寺 | 曹洞宗 | 大 6.3. 12 | 同 同 簾舞 | |
善住寺 | 本願寺派 | 大 6. 12.5 | 同 同 石山 | |
智徳寺 | 大谷派 | 明32.5. 20 | 白石村厚別 | |
安楽寺 | 本願寺派 | 明32.9. 18 | 同 同 | |
教照寺 | 大谷派 | 明43. 12. 10 | 同 本通 | |
北引接寺 | 天台宗 | 大 7.3.8 | 同 本通 | |
大行寺 | 興正派 | 大 8. 11.7 | 同 大谷地 | |
1.本願寺派は浄土真宗,大谷・興正・高田派は真宗の冠称を省略。 2.檀徒数は札幌村(大10),篠路村(大14),琴似村(大15),藻岩村(大12)の各村勢要覧による。 |
一方、諸町村でも人口は伸びており、七カ村の人口を合計すると、三十二年に約三万三〇〇〇人であったものが、四十二年には四万人となっている。三十二年以前は諸町村では一〇カ寺が存在していたが、三十三年以降は一六カ寺が新たに創設され、表3で示したように十年現在で二六カ寺となっていた。その中でも
浄土真宗は多く、大谷・
本願寺派が各七カ寺あり、次に
曹洞宗四、日蓮宗三カ寺となっていた。町村別にみると人口、面積が最も大きかった
豊平町に七カ寺あり、ついで琴似・
白石村に各五カ寺があった。
上記の寺院・
説教所数から推測がつくように、札幌市域では
浄土真宗の教勢が最も強く、続いて
曹洞宗、日蓮宗であったといえる。