カフェ文化全盛の大正十五(昭和元)年度の美術展が表3である。
ルビー喫茶店(南1西3)では、繁野三郎、
山田正、
今田敬一らが小規模な個展を、
カメヤ喫茶店(ススキノ4丁目)では、
加藤悦郎や新聞連載漫画「氷上ユーモレスク」の原画展覧会(一月十五日~十七日)が開かれる。「
外山卯三郎個人展覧会」(二月十一日から)は
札幌堂書店で開かれる。モダニズムをになう若者が、カフェで展覧会を催している。
展覧会名 | 主催者 | 期日 | 会場 |
山田正小品個展 | | 大15.1.4~10 | ルビー喫茶店 |
児童画展 | | 大15.1.14~16 | 時計台 |
漫画原画展 | | 大15.1.18~ □ | カメヤ喫茶店 |
五人小品展 | | 大15.1.23 | ルビー喫茶店 |
今田敬一個人展 | | 大15.2.3~ 8 | ルビー喫茶店 |
柳谷七郎ペン画展 | | 大15.2. □~ 6 | ルビー喫茶店 |
外山卯三郎個人展覧会 | | 大15.2.11~ □ | 札幌堂書店 |
加藤悦郎漫画展覧会 | | 大15.2.12~18 | ルビー喫茶店 |
山野全九作品展 | | 大15.3.9~ □ | ルビー喫茶店 |
燐寸レッテル展 | | 大15.3.17~23 | ルビー喫茶店 |
札幌素人書画会 | | 大15.4.10~12 | 三吉神社 |
郷土社第二回作品展覧会 | 郷土社 | 大15.5.8~ 9 | 有隣生命階上 |
島崎貢蒐集洋画展 | | 大15.5.11~17 | ルビー喫茶店 |
北大美術部展覧会(創基50年記念) | 北大美術部 | 大15.5.14~17 | 北大予科教室 |
五人作品展覧会 | | 大15.5.20~24 | 有隣生命階上 |
加藤悦郎第二回似顔漫画個人展 | | 大15.6.5~ 6 | カメヤ喫茶店 |
各派連盟第二回美術展 | | 大15.6.12~13 | 新善光寺 |
三画伯揮毫会 | | 大15.6.13~15 | 丸井 |
菊池良吉個大展 | | 大15.6.23~25 | アキノ喫茶店 |
めばえ会洋画展 | 札幌二中 | 大15.6.26~27 | 有隣生命 |
平原社洋画展 | | 大15.6.28~30 | 丸井4階 |
佐藤武造作品展 | | 大15.7.5~ 7 | 丸井4階 |
渡辺直堂画会 | | 大15.7.10~11 | 中央寺 |
洋画個人展 | | 大15.7.10~12 | アキノ喫茶店 |
長谷川三雄洋画個人展 | | 大15.7.20~22 | 丸井4階 |
黒田東保南画会 | | 大15.8 | |
北沢楽天漫画揮毫会 | | 大15.8 | |
伊藤晴雨劇画会 | | 大15.8.1~ 3 | 薄野万安料理店2階 |
小画展覧会 | | 大15.8.19~25 | アキノ喫茶店 |
伊藤泰山展覧会 | | 大15.9.11~12 | 新善光寺 |
書画展観 | 審美書院 | 大15.9.15~17 | 新善光寺 |
書画展観 | 報知新聞美術部 | 大15.9.19~20 | 新善光寺 |
矢尾太華南画揮毫会 | | 大15 | |
第二回札幌版画展覧会 | 札幌詩学協会 | 大15.9.25~29 | 停車場通商品陳列所 |
黒百合展 | 黒百合会 | 大15.9.28~30 | 丸井 |
第二回全北海道美術展覧会 | | 大15.10.1~17 | 農業館 |
チラシ広告展覧会 | | 大15.10 | |
素人書画会 | 札幌素人書画会 | 大15.10.16~17 | 三吉神社 |
手塚洋画個人展 | | 大15.10. □~12 | アキノ喫茶店 |
第一回漫画展覧会 | 日本漫画家聯盟北海道支部 | 大15.10.20~24 | 丸井4階 |
高橋和足洋画個人展 | | 大15.10.25~27 | 丸井 |
山内弥一郎小品日本画個人展 | | 大15 | |
大家の作品展覧 | | 大15.11 | |
米内豊隆所蔵作品展覧会 | | 大15.11.6~ □ | 鉄道集会所 |
札鉄絵画同好会第一回展覧会 | 札鉄絵画同好会 | 大15.11.20~21 | 札鉄集会所 |
岡島龍洋画個人展 | | 大15.11.23~25 | 豊平館 |
『北タイ』,『札幌の絵画』(新聞スクラップ関係資料 北海道立近代美術館所蔵)より作成。 |
大正十五年度の丸井呉服店では、帯広の平原社や
黒百合会といった洋画が中心で、官の後援がある秋の第二回全
北海道美術展は、唯一
中島公園の
農業館で開かれる。
それに対して、大正十五年六月十二日から十三日までの「現代日本画帝展、院展各派聯盟第二回美術展覧会」をはじめ、日本画、南画、書画会などは、
新善光寺や
三吉神社といった社寺で展覧会を行っている。
大正末から昭和初期の
札幌の喫茶店で、小規模な展覧会や漫画展覧会の会場となったものに、カメヤ、ルビー以外では、アキノ(南1西4)、三条、一等(カメヤ隣り)、白十字(
白樺、北3西3)、不二(
狸小路7)、
ブラジレイロ(南3西3)がある(図1参照)。
図-1 札幌の文化関係地図
『北方のモダン』(道立三岸好太郎美術館),『北タイ』,『札幌歴史地図』(昭和編)より作成。 |
大規模な展覧会が行われた
農業館では、
道展のほかに、
黒百合会、
蒼玄社(昭3以降毎年)、
フランス美術展(昭3、5)、
上野山清貢洋画個人展(昭4・5)、一九三〇年協会洋画展(昭4・6)、
楚人社、
北海道美術家聯盟展(昭6・5)といったものが開かれた。昭和八年八月には、小室翠雲ひきいる日本南画院の
札幌ではじめての展覧会が
農業館で催され、初日だけで一千余人の入場があったという(北タイ 昭8・8・28)。
農業館は明治三十九年十一月六日の建設で、満三〇年を経て、腐朽が甚だしく採光の不備、雨漏りもあり、
上野山清貢は
北海道美術館の建設を提言する(北タイ 昭10・10・2)。
大正期から丸井や
今井記念館(大15・11開館)では、展覧会が開かれていた。昭和七年五月一日に
三越札幌支店が開業して、その月に第二回
北海道美術家聯盟展を開いてからは、丸井と
三越は競うように小規模な展覧会を行い、デパートがカフェに代わり個展などの主たる発表の場となってゆく。