米方の収入は一五万九〇八一石余である(表34参照)。そのうち年貢・諸役米が七割を占めるが、家中の知行米の買い入れも二割半になる。年貢収納だけでは足りずに、恒久的な家中からの米買上げによって補填されていたことが明らかである。一方、支出は二一万二四七石余、費目の中で最大なのが上方への移出米で、六万五〇〇〇石、全支出の三〇・九二パーセントを占め、上方市場に立脚した経済政策がとられていた(表36参照)。ほかに江戸廻 米が二万四五〇〇石(一一・六五パーセント)、先納金を供出した加賀・上方の商人五人への廻米というものも一万六九一一石(八・〇四パーセント)あり、廻米関係だけで一〇万六四一一石に及ぶ。実に米方の収入の三分の二が廻米に充てられているのである。その後起こった天明の飢饉では、領内消費を無視したいわゆる「飢餓移出」が飢饉の要因として指摘されているが、その一端がここでもうかがえる。一方、人件費といえる藩士への蔵米渡・役知・切米・扶持米等は六万一〇一石(二八・五九パーセント)である。
表34 安永6年収入の部(米方) |
費 目 | 米高 (石) | 比率 (%) |
収納並小役米 | 110,816 | 69.66 |
家中知行米買上分 | 39,499 | 24.83 |
余分地米 | 8,311 | 5.22 |
小普請金代米 | 201 | 0.13 |
高岡神領米 | 184 | 0.12 |
黒石打出米 | 68 | 0.04 |
合 計 | 159,081 | 100.00 |
注) | ただし,斗以下は表示していない。 |
比率は小数第3位を四捨五入した。 |
表36 安永7年支出の部(米方) |
費 目 | 石高(石) | 比率(%) |
上方への移出米 | 65,000 | 30.92 |
江戸への移出米 | 24,500 | 11.65 |
要用払米 | 28,747 | 13.67 |
三ヶ所一番値段払米 | 1,200 | 0.57 |
先納金拠出商人の(木谷藤右衛門 他5名)買受米他 | 16,911 | 8.04 |
在方1万俵之元利 | 4,800 | 2.28 |
知行の蔵米渡・役知・切米・扶持米(閏月分含む)等 | 60,101 | 28.59 |
諸役人賄米 | 4,000 | 1.90 |
銅山木山杣飯米払米 | 1,320 | 0.63 |
浦々渡切米・浦々扶持米 | 966 | 0.46 |
庄屋被下米 | 452 | 0.21 |
貯籾代米 | 1,200 | 0.57 |
在々村位下成米手当米 | 839 | 0.40 |
御前穀物代米 | 65 | 0.03 |
赤米三千俵之一割二分下減 | 144 | 0.07 |
合 計 | *210,247 | 100.00 |
注) | ただし,斗以下は表示していない。比率は小数第3位を四捨五入した。 |
* | 合計が史料の数値(209,781石)と一致しないが,計算値を掲げた。 |
金方のほうは、収入が一九八五貫六八七匁(金三万三〇九四両余相当)である(表35参照)。そのうち領内での米の地払いの収入と考えられる「要用払米代」が一三〇一貫余で六五・八六パーセント、ほかに高掛(たかがかり)金という田畑にかかる年貢に準じる税が約一〇パーセントで、金銀方においても、湊役・酒造役などの商業資本に立脚した税収よりは、基本的に米穀に立脚した収入に基盤を置いていた事情がうかがわれる。したがって、金銀方においても凶・不作および米価の低迷によって容易に収入が左右されうるものであった。支出は二六〇七貫三〇四匁(金四万三四五五両余相当)で、うち借財返済関係は青森・弘前および在方の用達商人への返済など三口があり、銀換算で六六三貫五六五匁で二四・四五パーセントにも当たる。ただし、これらは国元の返済分だけで、江戸や上方の返済分は不明である。そもそも金銀方は、収支とも国元の費目に限った数値で計上されており、膨大な廻米の売却費、江戸藩邸費・参勤交代費・上方での入用などは別会計なので、江戸・大坂での具体的な収支については明らかにしえない。
表35 安永6年収入の部(金銀方) |
費 目 | 金高 | 銀 高 | 銀換算 合 計 | 比率 |
要用払米代 | 両 1,860 | 貫 匁 1,189,408 | 貫 匁 1,301,008 | % 65.86 |
三ケ所一番値段 | 70,235 | 70,235 | 3.55 | |
湊役 | 200,000 | 200,000 | 10.12 | |
酒造役 | 183,900 | 183,900 | 9.31 | |
諸家業役 | 36,200 | 36,200 | 1.83 | |
田畑高掛并銀納 | 134,028 | 124,028 | 6.28 | |
田畑高掛并銀納給地分 | 45,501 | 45,501 | 2.30 | |
田畑高掛并銀納余分地分 | 14,815 | 14,815 | 0.75 | |
合 計 | 1,860 | *1,874,087 | 1,985,687 | 100.00 |
注) | ただし,銀は分以下を表示していない。金1両=銀60匁として換算。 |
* | 合計が史料の数値(*は2,344貫478匁)と一致しないが,計算値を掲げた。 |
比率は小数第3位を四捨五入した。 |
表37 安永7年支出の部(金銀方) |
費 目 | 金 方 | 銀 方 | 銀換算合計 | 比率 |
家中よりの買上代 | 両歩 | 貫 匁 901,750 | 貫 匁 901,750 | % 34.59 |
青森手繰金返済元利 | 52,325 | 52,325 | 2.01 | |
在々手繰金返済元利 | 43,670 | 43,670 | 1.67 | |
用達並弘前手繰金返済元利 | 469.1 | 539,415 | 567,570 | 21.77 |
常用金 | 5,000 | 300,000 | 11.51 | |
切米渡(金・銀給分) | 1,516.2 | 45,000 | 135,990 | 5.22 |
運賃・駄賃 | 180,000 | 180,000 | 6.90 | |
延買代銀渡 | 168,515 | 168,515 | 6.46 | |
大豆買上代残金 | 81,892 | 81,892 | 3.14 | |
吉例金 | 200 | 12,000 | 0.64 | |
小納戸金(5月~9月分) | 200 | 12,000 | 0.64 | |
高岡神領上納滞金 | 838.1 | 32 | 50,327 | 1.03 |
小納戸より拝借金返済 | 877 | 34 | 52,654 | 2.02 |
家中よりの拝借金返済 | 221 | 13,260 | 0.51 | |
小普請金滞分上納 | 318.3 | 18 | 19,143 | 0.73 |
軍用金滞分上納 | 200 | 4,205 | 16,205 | 0.62 |
合 計 | *9,840.3 | **2,016,859 | 2,607,304 | 100.00 |
注) | ただし,銀は分以下を表示していない。 |
*,** | 合計が史料の数値(*は13,375両,**2,017貫359匁)と一致しないが,計算値を掲げた。比率は小数第3位を四捨五入した。 |